吃音診断されやすい痙攣性発声障害
痙攣性発声障害(Spasmpdic Dysphonia)という病気がある。声が詰まってしまうなどの症状が出るが、体のほかの部分には異常が見られない。そのため、心因性と間違われたり、吃音と診断されたりする場合が多い。周囲を気にして、外出できなくなる人も。治療中の患者が昨年、患者の会を発足。障害への理解と治療の普及を目指して活動を始めている。(野村由美子)
SDの患者でつくる「SDの会」代表の音楽教諭、小川悟さん(43)=仮名、静岡県掛川市は、十年ほど前、突然声の調子がおかしくなった。無意識に声が詰まるが、のどには痛みもない。自分ではしゃべりたいのに声を出せない。会議などで緊張するとさらにひどくなった。耳鼻科を何軒か回ったが、原困が分からないまま、ポイストレーニングを受けたり、「ストレス」といわれ、精神科を受診したりしていた。4年ほどたったころ、大学病院で、ポツリヌス毒素を微量、声帯に注射するボツリヌス療法を知った。以後、約3力月に1度、治療を受けに千葉県へ通う。
治療に通う中で同じ障害を抱えるさまざまな立場、職業、年齢の人に出会い、「精神的な支援が必要」と痛感し、福岡県在住の患者で言語聴覚士の中西由佳さん(32)とともにSDの会を立ち上げた。「『自分だけが訳が分からない病気で苦しんでいる』と悩んでいる人は多いはず。一人でも多くの人にこの病気の存在を知ってもらいたい」と小川さんは話す。
SDは、咽頭筋の痙攣様異常運動によって、締め付けられるような発声や声の途切れなどが出る病気。はっきりとした原因や治療法分からないまま。最近は、まぶたの痙攣や痙性斜頚などのジストニアに分類される神経系の病気であることが分かってきた。10万人あたり6.1人という調査もあるが、正確にはまだ分かっていない。
しかし、緊張状態にあると余計に症状が悪化することなどから、精神的な原因と精神科受診を進められたり、吃音と診断されたりすることが多い。中西さんの調査ではSDと診断されるまでに患者が回った医療施設数は2から10施設。周囲からも「変な声」と笑われたり、「もっとカを入れたら」と努力を求められたりして、人前で話せなくなる患者は多い。現在微量のボツリヌス菌の毒素を注射するボツリヌス療法が対症療として効果が上がると海外でも知られていて、日本でも一部の顔面けいれんには保険適用されているが、SDにはまだ承認もされていない。唯一、千葉県の帝京大学市原病院耳鼻科(小林武夫教授)で、患者との自由契約による診療として実施しているだけだ。小林教授は「病名自体、知らない耳鼻科医は多い。耳鼻科で診断がつかないと、患者はたらい回しになったままだ。正しい診断が広まれぱ、治療方法ももっと広がるのでは」と話す。
SDの会では、患者特有の声も公開したホームページ(アドレスは、http//www.d3.dion/~yukan/))を立ち上げ、全国にまたがる会員同士の交流や病気への理解を求めるほか、ことしはパンフレットー万部を作製し、全国の病院に配布する。国にポツリヌス療法承認も求めていく。