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パーキンソン病と言語障害
パーキンソン病患者の89%は言語障害を表すと言われています。
しかし、パーキンソン病は言語障害の高い有病率にもかかわらず、患者のわずか3~4%しかスピーチ治療を受けていないと言われています。
構音障害の治療法としては、圧倒的に薬物的介入が多いようです。手術や深部脳刺激法などが行われることもあります。言語聴覚士による治療や自宅での発声トレーニングを実施している人はまだまだ少ないのが現状のようです。
Lee Silverman Voice Treatment(LSVT(R))とは?
近年、日本でもLee Silverman Voice Treatment(LSVT(R))が導入されています。
米国のRamigらが考案した発声発語明瞭度改善目的の訓練法で、特にパーキンソン病患者の発話明瞭度改善に有効であることが知られています。
ST領域で初めて、訓練効果に関するエビデンスが臨床研究では最高の"レベルⅠ"と認められた手法です。
過去10年以上、世界各地でWorkshopが開催され、多くのSTが"LSVT®"を施せるようになっているにもかかわらず、日本では2009年8月までWorkshopが開かれたことがありませんでした。
海外へ出向かない限りは日本のSTは認定を受けることが不可能でしたが、2009年に新潟リハビリテーション大学院大学(現、新潟リハビリテーション大学大学院)で第1回Workshopが開催されました。近年、発声発語への治療効果だけでなく、摂食嚥下障害の改善も報告され始めています。
【言語リハビリテーションの内容】
パーキンソン病の方は、気づかないうちに小さな声になりがちです。声が小さいため、声は内にこもってしまい明瞭度が落ちて、聞き手になかなか伝わらないこともしばしばです。
Lee Silverman Voice Treatment(LSVT(R))は発話明瞭度の改善を目的に、意識的に大きな声を出すトレーニングです。
声を大きく出す習慣を身に着けることで、日常会話の改善を目指します。
・ホームエクササイズーセルフトレーニングや自己管理の習得を促します。
・リハビリ訓練スケジュール
STEP1 自分の声の大きさを自覚できる。
STEP2 他者の声掛けで大きな声で話せる。
STEP3 訓練場面において自発的に大きな声で話せる。
STEP4 生活場面において自発的に大きな声で話せる。
大きな声で話せるには、呼息筋筋力トレーニングが必要
PubMedの2017年の記事に、パーキンソン病―呼息筋筋力とレーニングのスピーチへの影響という論文が掲載されていました。
胸郭にある呼吸筋は自分で勝手に動くことはできません。脳からの収縮しなさいという命令を受けて動いています。息を吸いなさいという指令で吸息筋が働き、次に息を吐きなさいという指令で呼息筋が働くわけです。
この吸息筋と呼息筋が交互にしっかり動いていることが呼吸としては重要になります。しかし、胸の呼吸筋が硬くなってくると、胸郭の拡張と収縮の動きが十分に行われなくなり、結果、浅い呼吸になってしまいます。
声は呼息筋の働きにより呼気に乗って作られていきますので、吸息筋と呼息筋が柔軟であることは重要です。
先に紹介した論文には、呼息筋筋力トレーニングがスピーチ呼吸にいかなる影響をもたらすかを調べていました。結果は、呼息筋が柔軟になることで呼気圧や呼気量が上昇し、その結果話し言葉の改善につながることが示唆されたとありました。
この論文には、声が大きくなったかどうかという具体的なデータは載っていませんでしたが、きっと呼気圧や呼気量が上昇したことで、声の大きさが大きくなったことと思います。
そういえば、以前の記事で紹介しましたが、DAFトレーニングでも、顕著な効果として声が大きくなることが証明されていました。
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パーキンソン病の構音障害にDAF
パーキンソン病の構音障害におけるDAFの効果について パーキンソン病による構音障害に対する遅延聴覚フィードバック (DAF) の効果について検討した日本の文献(昭和大学病院リハビリテーション科)を見つ ...
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確かに声が大きくなれば、自分の発声音がフィードバックしやすくなることで言葉の明瞭度が上がります。トレーニングを重ねることで、徐々にコミュニケーション能力にも改善がみられることでしょう。